1980年に米国人物理学者のルイス・アルヴァレスとその息子で地質学者のウォルター・アルヴァレスは、「6500万年前に直径約10km(チョモランマ山+富士山の高さに相当する)の巨大な隕石が地球に衝突し、地球上生物の大量絶滅が生じた」という衝撃的な仮説を科学雑誌「サイエンス」に発表した。
巨大隕石の衝突によって生み出された巨大な衝撃波と熱エネルギーが半径数千km以内のものを破壊し、焼き尽くし、さらにその後長期間にわたる地球規模の環境変化をもたらして、多くの生物を絶滅に追いやったというのだ。

 この仮説は前述の「小さな変化が除々に積み重なって大きな変化となる」という地質学および古生物学のドクマに反するものであったため、物理学者の「たわごと」としか受け止めない専門家が大半であった。(父ルイスは水素泡箱の開発で1968年度のノーベル物理学賞を受賞した有能な科学者であったが、地質学にも古生物学にも素人であった)。
この分野の有力な研究者のなかには猛烈に反論を続ける人たちもいた。
しかし、アルヴァレス父子らはこれを一つずつ論駁し、有力な状況証拠を積み上げていった。
そして、ついにメキシコのユカタン半島北部海岸沖に予想通りのクレーター
(直径約200km)が発見されたのである。
チチュルブ・クレーターと名づけられたこの円形構造が6500万年前に巨大な衝突によって形成されたものであることを裏付ける決定的証拠(チチュルブの角礫岩内および遠隔地のK-T境界粘土層内の衝撃変性ジルコン)が見出されるに及び、たわごとは定説となった。
BACK NEXT